入浴による1℃の差がカラダを左右する
大きいお風呂に入ると、なぜ気持ちがいいのだろう? なぜフゥーっと息を吐き出してリラックスしてしまうのか? そんな精神的・生理的感覚を医学的に解明しようとした実験が21年前、東京都浴場組合が北海道大学の温泉医学研究所・阿岸祐幸教授(当時)に依頼し、札幌の銭湯を借りて行なわれました。
その結果は、大きな浴槽に入浴するほうが、リラックスしていい脳波がたくさん出るし、自律神経のバランスも変わり、より深いリラックスへ誘導する、といった「気持ちのいい」理由が科学的に裏付けられるものでした。
「水温が38℃以上になると心拍数、心拍出量などが増加してくる。末梢循環系では、血流量や血流速度が増加、10分間42℃の湯に浸かると、血圧は入浴直後から上昇し始めて、20〜40くらい増加する。これは熱い湯による刺激で交感神経が興奮して血管を収縮させ、急に血圧を上げてしまうからである。脈拍は40拍ほど、体温も2℃ほど上昇してくる。したがって、高血圧症、動脈硬化症の患者や高齢者ではこのような高温浴は避けるべきである」とあります。
私たちの体はたった1〜2℃体温が変わるだけで、体調が大きく変化します。お風呂も同じ。わずかな温度の違いで、体への効果が変わってきます。その境目となるのが「42℃」なのです。
42℃以上の熱い湯に入ると、戦闘モードをつかさどる交感神経が高ぶります。血圧は上がり、脈拍は早まり、筋肉は緊張します。一方、内臓の働きは弱まり、食欲は一時的に減退します。寝る前に熱いお風呂に入ってしまうと、神経が高ぶり、寝つきが悪くなることもあるのです。
熱めのお風呂やシャワーが好きな方なら、朝がおすすめです。交感神経が優位になり、眠気モードから活動モードに切り替わります。朝から体の活動性が高まることで、1日の消費カロリーが高まり、効率の良い自然なダイエット効果も期待できます。
一方、40〜41℃程度のぬるめの湯は、リラックス状態をもたらす副交感神経を優位にします。血圧は下がり、脈拍はゆっくり、内臓の働きが活性化して消化が促されます。就寝前やリラックスしたいときはぬるめのお風呂がベスト。入浴から30分〜1時間後に体温が下がるタイミングで心地よい眠気が訪れます。
ちなみに、人間の体は体温が1℃下がると、基礎代謝や免疫機能が下がり、体内酵素の働きが鈍くなり、肥満、感染症、がんなどさまざまな不調や病気を引き起こすと考えられています。
約40℃のお湯に10〜15分ほど浸かることで、体温は約1℃上昇します。寒い日や疲れた日は入浴で体温を上げておくと、体力回復や病気予防につながります。お風呂の温度を上手に使い分けることで、体のモードを切り替えたり、病気を防いだりと、さまざまな健康効果を生み出すことができるのです。
入浴が楽しくなる入浴剤を使って長風呂に挑戦
入浴に効果があることはわかったとして、なかなか長く浸かれない人は入浴剤を試してみませんか?
入浴剤には、身体を芯から温めて疲労回復を促す他にも、色や香りで心をリラックスさせ、良き睡眠へ導いてくれるなどのたくさんのメリットがありますよ。
①血行促進
温かい湯に浸かるだけでも身体が温まり血行が良くなりますが、入浴剤を入れることでさらに血行促進を促すことができるのです。
理由は炭酸ガスです。
炭酸ガス(二酸化炭素)は体内に入り込む性質があるため、その分、酸素との比率を身体が保とうと皮膚呼吸が増すので毛細血管が広がって血の流れが良くなります。
その結果、血行促進が促されるのです。
②疲労回復
血行促進が促される入浴剤は、老廃物も同時に排出する効果があります。老廃物が溜まった身体は疲れが取れにくい上に、溜まりやすいのです。
いらない老廃物を汗として発汗することで、疲れも取れて、体内が綺麗に洗浄されます。よって、疲労回復に効果的なのです。
③リラックス効果
身体を温めながら、良い香りと綺麗な色湯に包まれることで身体と心をリラックスさせることができます。
入浴時にリラックスできることで、その後の睡眠にも大きく影響してくるので深い睡眠を促すこともできます。
④美肌効果
冬は乾燥しやすい季節です。
温まって毛穴が開いている状態は、美肌成分も吸収しやすい状態となっています。
1日の疲れた肌をリセットするため効果的です。
⑤肩こりや筋肉疲労回復
血行が良くなるとゆうことは、詰まっていたリンパの流れを促す効果もあります。
リンパの流れが悪くなると、肩こりや筋肉硬直などの原因となってしまいます。
入浴剤を入れて血行促進をすることで、固まっていた筋肉がほぐれるので、肩こりや筋肉疲労を回復する効果も期待できるのです。
知っておきたい医学的に正しい入浴法
- 顔が汗ばんできたら、湯船を上がるサイン!
湯船に入って顔が汗ばんできたら、体が十分に温まったサインです。40℃前後の湯ならば10〜15分、42℃の湯なら10分以内。それ以上頑張ろうとすると、体に負担をかけてしまうことも。汗ばんだタイミングで、お風呂を上がるか、体を洗うなどしてクールダウンしましょう。
- 肩まで浸かる全身浴で元気回復
温熱効果や静水圧作業を期待するなら、肩までしっかり湯に浸かりましょう。ただし、急に湯船に入らず、十分なかけ湯で体を慣らしてから入浴しましょう。(全身浴は胸に水圧がかかるため、心臓や呼吸器の疾患がある方は主治医に相談してください)
- お風呂上がりのビールは危険です
入浴で失われる水分は約800ml。水やイオン飲料などでしっかり水分をとってから入浴しましょう。ちなみにお風呂上がりのビールの一気飲みは危険。ビールには利尿効果があるため、水分補給どころか脱水を引き起こしてしまうことも。お風呂上がりのビールを飲むなら、水やイオン飲料と一緒にとりましょう。
- 風邪気味のときは入浴で免疫力アップ
38℃以下の熱で体調がさほど悪化していなければ、40℃前後のお風呂で回復が早まる効果があります。体内温度が上がることで免疫機能が上がり、蒸気が鼻や喉の粘膜についたウイルスを弱らせ、症状を緩和します。
日本の入浴の歴史は長く、約6000年前の縄文時代の遺跡に温泉を利用していた痕跡が残されています。また、奈良時代には銭湯の起源が見られ、近世には江戸を中心に銭湯が爆発的に増えました。
ほとんどの世帯に風呂がある現在、引き継がれてきた健康習慣を大切に、これからも自分の体調に合わせて上手に活用していきたいですね。